宍戸先輩に一緒に帰ろうと言われた。



着替えをする時にずっと逃げ回るわけにもいかないと、ソレに対する対処はしっかりとやってきたから、彼に一緒に帰ろうと言われたとき少し迷ったものの、一緒に帰ることに私は決めた。



























が、彼と一緒に帰らなければ良かった。


もっと遅くに部室に行けば良かったと後悔することになる。























扉の前まで来たとき中からわずかに聞こえる声に私は一瞬戸惑った。







まさか。





と思った。







「宍戸先輩ちょっと待っ・・・・・」



思わず私は制止の言葉をかけた。








しかし、宍戸先輩は余程早く私と2人だけの空間から逃れたかったのか、かなり焦って扉を開き、私の声が彼に届くことは無かった。



扉を勢いよく開けた彼は目の前にいた鳳くんの所へ一目散に駆け寄ると、安心したかのようにベラベラとしゃべり始める。











扉の前から動くことが出来なかった、いや動きたくなかった私は、中で私と一緒にいたときとは違う宍戸先輩の心からの笑顔に、私の予想は杞憂であったのだと安心し、ホッと小さな息を吐いた。









そして、一歩中に足を踏み入れた。





























そして。


踏み込んだ瞬間、目に入った光景に私は再び動けなくなる。





















何で私は踏み込んでしまったのだろう。



底なし沼に入り込んでしまったような感覚だった。
















宍戸先輩の笑顔があまりにも普通で・・・・




私の張り詰めた緊張、研ぎ澄まされた感覚は一瞬緩んでしまったのだろう。









でなければ、扉を開ける前に・・・・・




もしくは、どんなに遅くても扉を開けた瞬間、気付いたはずだ。


























この噎せ返るような嗅ぎ慣れた匂いと






AVを見ているような女の喘ぎ声に・・・・・
















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   9 -tenebra-













噎せ返るような匂いに私は思わず手で口を覆った。










この匂いには覚えがあった。



そう。

精液の匂いだ。














思わず俯いた私の目に入ったのは


部屋の至る所に散らばった下着やジャージ達。











自分の目で確認するまでもなく、もうこの部屋で何があっているのかが私には分かっていた。


















が、私は何故か私は顔を上げてしまった。


まさか、という思いがあったからだろうか。













そして。

見た瞬間この場からすぐにでも立ち去りたかった。





・・・・この場から立ち去ろうにもあまりのショックに足が動かない自分が腹立たしい。




















「あっ・・・・・・あん・・・・・ん・・・・・」


女の喘ぎ声が響き渡る。





一つでは無い。



右方からも左方からも・・・・・

部屋中の至る所から聞こえてくるような気がした。







混乱し過ぎて私にはもはや何人の女がいるのかなど、判別不可能だった。

















一番入り口から近いところにいた女の背中が目に入る。


男の下半身が女を突き上げる度に、白い背中が美しく撓る。






そして、そのタイミングに合わせて女の喘ぎ声が幾度も漏れた。














相手の男は椅子に座っていた。




女は全裸なのに、何故か男は制服をきちんと身に着けている。










普段と違うのは、ズボンの口からソレが出ており、そして、ソレが上に跨っている女のソコに挿入されていることくらいだ。
















男は限界に来たのか、ラストスパートとでも言うように下半身を激しく動かす。


それに合わせて女も激しく体を上下させる。












そして・・・・・
















あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!





女の体が今まで以上に激しく撓った。















その瞬間、今まで女の体に隠れていた男の顔が明らかになった。


















私は、見てしまった。












私の顔を見つめ、口の端を僅かに挙げた、











跡部景吾の姿を。





















その瞬間。


私の記憶が遡り、相手の女が誰かなのかも分かった。











だ。










彼女が焦ってあの場から立ち去ったのはこれがあるからだったのだ。



























終わったはずなのに止まらない激しい息遣いと女の喘ぎ声。



扉を隔てた向こう側からも聞こえてくる肉と肉がぶつかり合う音。



こいつらの他にもセックスをしているヤツらがいることは明白だった。













「あっちにいるのは向日と忍足だ。」

私の考えを読んだかのように笑いを含んだ声で呟いたのは跡部。


跡部は気を失ったを乱暴に床に横たわらせると、ゆっくりと俺の方に歩み寄ってくる。














「あんたら部室で何してんですか。」

冷静を装い俺はそう尋ねていた。



そんな俺に跡部が可笑しそうに口元を歪ませる。








「何だ、お前やけに冷静じゃねーか。」


「そういうわけじゃありません。呆れているだけです。」


「呆れてる・・・・?何故?」











「ここはそういうことをする場所じゃない。やりたいならラブホテルでも行ってきたらどうですか?」









そういった瞬間。

私はいつの間にか目の前まで近付いてきていた跡部に胸倉を掴まれる。


背の高い跡部に胸倉をつかまれ持ち上げられ、私はつま先だけで立っているような状態になっていた。















息が苦しい。


顔が紅潮していくのが分かった。





















「そうそう。普通はこういう場面を見たらそういう顔すんだよ。」

赤くなった顔に満足したのか、跡部は嬉しそうに唇をペロリと舐める。









「は、離せ・・・・・」



「おっと、悪いな。」

悪びれた様子もなくそう私の耳元で呟くと、跡部は無遠慮に手を離した。






私の体が激しく床に沈む。












四這いになった私は息を大きく吸い込む。



激しく繰り返し、何度も何度も。











たくさん酸素を吸いたくて、でも吸えなくて・・・・・

もどかしかった。















「何、ゆっくり座ってんだよ。早く立て。」


だが、そんな私の気持ちを知ってか知らずか跡部は遠慮無しに私の二の腕を掴み強引に立たせる。















「これは遊びじゃねぇ。神聖な部活動の一環だ。」


「はぁ・・・・はぁ・・・・・・部活動の一環・・・?どこがだ・・・・・・?」



息を切らしながら私は何とか言葉をつむぐ。






ほとんど跡部の腕の力によって私の体は支えられているような状態だった。

















ガチャッ・・・







不意に先ほど嫌な音が聞こえていた部屋の扉が開く。











「マネージャーがテニス部にとって大切な大切なレギュラー達の心のケアから体のケアまでやるんは当然やろ?」


「そうそう!出すもんは出さないとな。」











扉の先から、柱に寄り掛かるようにして出てきた忍足と、その忍足の背後から顔だけひょこっと飛び出させた向日が現れる。


彼らの顔もまた、先ほどまでの跡部と同じで口元に嫌らしい笑みを浮かべていた。






















「心のケア・・・・体のケア・・・・・・・?」



「そっ、心と体のケア♪正レギュラーってのは結構プレッシャー大きいんだぜ?それを癒すのもマネージャーの仕事。これ当然!」

楽しそうにケラケラと笑いながら向日が言う。






















「・・・・・・そういうことか・・・・。」







その瞬間私は全てを理解した。


























「侑士〜!今日、予約はどうなってんの?」


「そういや、今日入れとらんなぁ・・・・。何か最近飽きてしもうて。」












「だったら、忍足。お前が新しいヤツを見繕って来い。」
























「こいつはまだ入ったばっかだからさ、私達がどれだけレギュラー達にとって必要な存在か分かってないのよ。」





「もうすぐ分かるわ。私達のマネージャーとしての本当の仕事は何なのかってことがね。」













「ま、男のあんたには関係ないけどね〜。」





「そうそう。だからその分、あんたは私達が本業に専念出来るように、頑張って雑用を片付けてもらわないと。」
























女マネージャーが38人もいる理由。


仕事をしないでも許される彼女たち。










その答えは簡単だったのだ。













彼女達の仕事は本来のマネージャー業なんかではなかった。














彼女達の本業は




































彼らの性欲を発散させるための道具なのだ。























正レギュラーにだけ与えられた権利。











唯一の救いは女達が自分から彼らを求めているということだろう。




同意の上の行為だから、ある程度は許容される。























恐らく、他の部員達は知らない。





そして、当然教師達も。














正レギュラーだけの秘密。



秘密の儀式。























だが、太郎さんだけは気付いていた・・・・・。




彼がわざわざ私を男装させたのはこれがあったからなのかもしれない。


















だが、何のためにこいつらの元に私を送り込んだ?



意味が分からない・・・・。




























「何や、こいつ。固まってしもうて・・・・。」




「もしかして、Hしてるの見て勃たせちゃってんじゃねぇ?何か顔赤いし。」



向日の手が勢いよく私に向かって伸びてくる。










が、私はその手首を絡めとる。















「汚い手で俺に触るな。」

自分でも驚くほどの低く、地面を這うような声でそう呟いていた。















私が、それを言うのか。







私のやっていることを知ってる人達は声をそろえてそう言うだろう。

















が・・・・・





女を道具としか思っていないこいつらも。







行為に加担していないにしろ、周りで何も言わずに眺めているだけの彼らも。
















嫌悪感が体中を駆け巡る。

























私は向日の手を掴んだまま、視線を跡部の背後に動かした。















こちらを驚いたように見つめている鳳、宍戸と視線がかち合う。








こいつらも異常だ。














こんな状況で本を読んでいた鳳も。

こんな中に笑顔で入って来れる宍戸も。










こんな状況を何気ない日常、まるでただの背景かのように普通に過ごすことが出来る彼に吐き気がする。


































「手、離せよ!!」


向日が私の手から逃れようと、大きく上下に手を振り動かす。




が、私は特に抵抗することなく向日の手を解放した。

















「いってーーーーー!!思いっきり掴みやがって!!」


解放された手を振りながら向日は上目遣いに私を睨み付ける。






しかし、そんな向日の行動など今の私には全く目に入ってきてはいなかった。





見えるのは目の前で面白そうに私を見つめている






跡部景吾。
















「つまり、俺がテニス部に入れたのは『本当の』マネージャー業を行うマネージャーが欲しかったからですね。」


「まぁ、そういうことだな。」


跡部はニヤリと笑う。




















確か太郎さんが言っていた。


太郎さんは「入部希望者がいる。」と伝えただけで他には跡部に何も言わなかったそうだ。

私との関係はもちろん入部を勧めるようなことも。







「今まで通り、お前が入部させるかどうかは判断しろ。」とだけで・・・・。











が、跡部は入部希望者が男と聞いただけで即答したらしい。
















そう。






「ちょうど、男のマネージャーが欲しかったんで、是非入部してもらえたらこちらとしても助かります。」




と。


























「にしても、もうちょっとまともなヤツは選べんかったんかいな?こんなクソ生意気で可愛くないのよりはまともなヤツならおると思うがなぁ・・・・。」



「そうだぜ!もうこいつ止めさせようぜ!!!」


わざとらしく向日は先ほどまで私がつかんでいた手を突き出し見せ付けるように掌を振る。

















「まぁ、落ち着け。男でうちのテニス部のマネージャーを希望してくるヤツなんてそうそういない。新しい希望者が出てくるまでは様子を見てみようじゃねぇか。」



「けどさ〜・・・・・」

向日が不満そうに唇を尖らせる。





黙ってはいるが忍足も不満そうに私に視線を向けている。

































「こいつもこの部室でこれからやっていくんだ。徐々に分かってくる。























別に普通のことだってな。」



























その言葉を聞いた瞬間―。










ザワリと鳥肌が立った。


















跡部の言葉が頭の芯を突き刺す。














『慣れること』の恐さ。




体を売ることの恥ずかしさを感じなくなった時の感覚を知っている私にとって、それはまさに真実だった。


















すでにどこか壊れている私は、きっとすぐにこの環境に慣れてしまうだろう。






















私はゆっくりと、しかし力強く拳を握り締める。








というより――。





もうすでに私の心は普段の私のように、波一つ無い冷静さを取り戻しつつあった。









それがこれから先、そう遠くない未来の全てを物語っているような気がした。






























『慣れたくない』




そう思う心が、ゆっくりとかき消されていくようだった。























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