になら出来ること。










もう、分かっていた。




自分に出来ることはこれしかないと。






















だって、私が今までしてきたことなんて・・・・








これくらいしかないんだもの。















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   34 -rosa-



















『服を脱いで足を開け』







忍足先輩の口から紡ぎだされた言葉は別に驚くモノでもなかった。









だけど、その言葉を聞いた瞬間、少し驚いてしまったのは



ただ、予想より少し早かったから。









一体何がココまで彼を急き立ててるのかは分からないが、




今の彼はいつもの余裕が無いように感じた。













無遠慮に見下ろす忍足先輩から視線を逸らすと、私はゆっくりと起き上がり、ベッドの端に座る。





「私みたいな不細工には勃たないんじゃなかった?」

私のその馬鹿にしたような言葉に忍足先輩がグッと奥歯を噛み締めたのが分かった。





その顔が何だか私を優越感に浸らせる。






「忍足先輩って思ったより可愛い人なんですね。」

コロコロと鈴が鳴るような声で笑いながら言うと、忍足先輩は一時瞠目した後、私とは対照的に地を這うような低い声で眉間に皺を寄せて睨みつける。




その眼には怒りとは別に、どこか戸惑いのようなものが含まれていたように感じる。





「お前・・・・・・・・・・ホンマにあのか・・・・・・?」



「そうですよ。とは言っても貴方の言う『あの』ってのがどのなのかは分かりませんが・・・・。」






演技をし過ぎたせいで今となってはどれが本当の自分かということすら分からなくなりそうだが、確かにどれも『』でしかない。






これは私が人に愛されるために身に付けた方法。








本当の私を愛してくれる人なんて誰もいないから・・・・・






そう。

腹を痛めて私を生んでくれたその女の人にさえ・・・・












私は愛されなかった。














「ふ・・・・・馬鹿みたい・・・・・・・。」

無意識に口元が歪み、私は自分を揶揄するかのように小さな声で吐き捨てた。




誰にも聞えないくらい小さな声で。















けど・・・・


「誰が馬鹿やって?」


そう言ったのは忍足先輩。






思った以上に声が大きかったのか、それとも忍足先輩が単に地獄耳なのか。








それは分からないけど・・・・









とりあえず、





驚いた。


驚き過ぎて思わず彼の顔を凝視してしまうくらいに。










「何や、その顔は・・・・・。」

不愉快そうに言った彼の顔を見ていると、彼は先程の言葉は自分に向けられたものだと勘違いしているのだと分かった。



けど、別に勘違いされて困るような関係でもなければ、強ち先程の言葉が間違っている訳でもないから。




特に訂正する気も起きなくて。










私はピョンっと跳ぶようにしてベッドから立ち上がると、軽やかな足取りで前へと歩いた。








−貴方なんて眼中に無い



とでも言うかのように。


その時には私の目はすでに彼の姿を捕らえてはいない。





そして

丁度忍足先輩の横を素通りしようとした時、











突然視界が揺れた。






「何処へ行くつもりや。」


そう言って忍足先輩はいきなり私の方を振り返ると、私のワイシャツの襟元をグッと掴み自分の方に引き寄せたのだ。

















いつか跡部部長にされた時のように・・・



自分より背の高い彼に、私はまるで首を絞めるられて入るかのような錯覚に陥るほど、高く持ち上げられ、ようやくつま先で自分の体重を支えているような状態になっていた。











苦しかった。



本当に死んでしまうかと思った。









でも、私の両手は決して抵抗しようとはしない。

ぶらん・・・と意味も無くぶら下っている両手は力なくわずかに揺れているだけだった。








身長が結構違うというのに、無理矢理上を向かされた私の顔の目の前には忍足先輩の顔がある。








「勃たんのなら、勃たせるようにするんがお前の役目やろ?」


言葉と共に僅かに吐き出される吐息でさえ感じるほど。









どれもこれも、あの時・・・






そう。



初めて、氷帝テニス部の秘密を知ったあの日、あの時の、跡部部長がフラッシュバックする。












あの時もこんな感じだった。








だけど、一つ大きく違うのは



あの時感じた怒りも嫌悪も無く。











ただ、心だけが妙に冷め切っているということ。







僅かに紅潮した顔とは対照的に私の瞳は何の光も持たず彼を見上げ、そしてその双眸がやけに熱の篭った目で私を見ている忍足先輩の姿を捉えた。












「お前も結構その気なんやないか?」

一体何を基準にそんなことを言っているのか分からない。









そんなことを考えるほど余裕があり。


息苦しさも忘れるほど私の心は冷え切っていた。







本当なら『どうしてそう思うのか』聞いてみたいところではあるが、身体は息を吸うのが精一杯でそれほどの余裕は無い。















「やったら・・・・・まずは前戯から行こか?」


そう言って忍足先輩はより強く私を引き、顔を近づける。








もうその行為だけで、彼が何をしようとしているのかはほとんど分かっていた。


けど、確信はなかった。



だから





「舌を出せ。」










忍足先輩がそう言った瞬間。








自分の予想がやっぱり当たってしまっていたことに







少し悲しかった。


















それからすぐに、

彼の顔が徐々に近付いてくるのが分かった。








特に何か反抗する気も無かった。






別にキスなんて大したことじゃないから。











今まで何度もしたことあるんだし。

・・・・・大したことじゃない。







したけりゃすればいい。





それで、彼が満足するのなら安いもんだ。
























































・・・・・キスしても良いか・・・・・・・・?





















突然聞えてきた声に私は目を見開いた。














これは誰の声?




















知らない。





知りたくも無い。

















ヤメテ
















『お前に触れようとすると手が震える・・・・・。一度触れてしまったら・・・・・・』










ヤメテよ・・・・・













『お前がこの世に生まれて来てくれて良かった。』



















ヤメテヤメテ・・・・・・・










































『俺はお前を許せん・・・・』



















ヤメテ・・・・ヤメテ・・・・・・・・





ヤメテ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


















































『サヨナラ。』




















































ヤメテっ!!!!!







そう叫ぶのと同時に、私は彼の手を勢い良く振り解いていた。

いや、叩き落していた、という方が正確かもしれない。








何にしろ、解放されたことにより


やっと思う存分酸素が吸えるのだけれど、






それすら意識出来ないくらい私は呆然としていた。






私は額から溢れる変な汗を拭うように右手で前髪をゆっくりと掻き揚げる。

















自分は今、何を思い出した?




何故今頃思い出した?








誰を思い出した・・・・・?






















私は無意識に呼吸を整えながら、繰り返し繰り返し、自問自答する。






「何を止めるんや?」

勘の良い忍足先輩が今ので分からない訳が無いのに、

忍足先輩は何も気付いてないかのように、いけしゃあしゃあとそう言った。





私は少し荒れた自分の感情を落ち着かせるかのように、瞳を僅かに伏せると軽く息を吐く。




それを繰り返した後、




「条件をもう一つ付け加えても良い?








他の事は何でもするからキスだけは止めて。」


そんなことを言ってしまっていた。



今まで、どんなに嫌でも我慢してきたというのに

こんな肝心な場面で私は一体何を言っているのだろう。






そう思ったけど、止められなかった。

わずかに自己主張する私の心がそれを許さなかった。












そして、忍足先輩はその言葉に



クッと馬鹿にしたように笑った。







「何や?操を立てる相手でもおるんかい。」


肩を竦め、笑いを漏らしながらそう言った忍足先輩の顔は、端からそんな人間が私にはいる訳無いと決め付けていた。







それは結構不愉快なことだった。









たった数週間の付き合いで、しかもこれ程までに近くにいることなんてその中でもさらに短い時間なのに・・・・



















この男は何を分かったつもりでいるのだろう。











何も知らないくせに・・・











そうだ・・・。


この男は私のことなんて何も知らないんだ。











というよりも、私のことを知っている人間がこの世にいるのだろうか。







私という人間を・・・・・ありのままを見てくれる人がいるんだろうか。












例えそれがマイナスの感情だったとしても。




それは構わなかった・・・・・















ただ・・・・




私は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
















私を・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






























「そうですよ。私はキスを許すのは彼氏だけです。」

私は息苦しさも、先程までの動揺も、何もかもすっかりと消し去り、そう言って微笑んだ。




いつか、聞いたような言葉を吐きながら・・・・・。
















嘘。





そんな相手なんていない。





















昔、ちょっと心動かされたことはあったけど・・・・






今はそんな不必要な感情は無い。























私の告白に忍足先輩は嗤えるほど、驚いた顔をした。





その顔に何だか影が宿っていたような気がしたのはきっと気のせいだろう。




彼が傷ついたような顔をしたのは・・・・・














見間違いだろう。




























「えっ・・・・・!?」




一拍間を置いた後。






彼をただ黙視していた私がいきなり驚いた声を上げたのは









「・・・・・・・・・。」

忍足先輩が私をまるで荷物でも持つかのように、肩に担ぎ挙げたから。










軽々と私を自分の肩に担ぐと、




「ちょ、ちょっと!!下ろしてよ!」



そう言って彼の背中を叩き、足をバタつかせる私のささいな反抗などまるで意にも介さず、元の場所−ベッド−の方へと向かって逆戻りし始めた。













そして。













ドスン






柔らかいベッドが深く沈み、私が埋もれるほどの勢いで私をベッドの上へと投げ捨てる。
















今度は彼も一緒に。









忍足先輩は今度は逃がさないとでも言うかのようにベッドに倒れこんだ私の両足を大きく開くと自分の身体をその間に割り込ませる。








私の身体を挟むようにして、彼は両手をベッドに付くと、身も凍えるほど冷徹な瞳で私を見下ろす。





「分かったわ。キスは無しにしてやる。」





そう言った忍足先輩に



「・・・・・・ありがとう・・・・」


と思わず礼を言ってしまっていた。








なんてマヌケな返答なんだろうと自分でも呆れる。









だけど、酸欠状態にあったためか、それとも思い出したくも無いものを思い出したためか・・・とにかく、あまりに強引に進められた展開に私の頭はまだ追いついていなくて。




私はただ、仰向けに倒された状態で、ただただ・・・私を無遠慮に見下ろす彼を見上げるしかなかった。

















「やったら、早く『他の事』で満足させてくれへんか?」



そう言いながら忍足先輩はYシャツの下から手を進入させる。









その手は太腿を撫で上げ、そして、足の付け根の辺りに爪を立てた。






その行為に私は思わず眼を瞑り、


身体は私の意志に反してピクッと震える。







そんな私の様子に


「何や?これだけでもう感じとるんか?」




揶揄するように彼はそう言うと、調子に乗ってさらに深く触り進める。



















別に感じている、訳ではなかった。









ただ、ココを・・・・



特に左の内腿を触られるのには恐怖感があった。














そこに刻まれているその印が否が応でもその存在を私に知らしめるから・・・・













一生消えない、その印。









普段は特に意識するほども無いほどのものだけど、こうやって行為の最中で・・・こうやって触られると、どうしても意識せずにはいられないのだ。















そして、思い出す。











私が最初で最後の・・・・











後悔を知った












あの日のことを。






















忍足先輩はそんな私の心など露知らず、さらに私の足を左右に大きく開かせ、




それから、強引にYシャツを引き裂く。









しっかりと留められたはずのボタンがベッド上に、中にはもっと遠くに・・・無造作に散ばった。








それと同時に


一気に下半身しか下着を身に付けていない、私の生まれた姿のままの上半身が外気に晒される。














その瞬間。



忍足先輩がゆっくりと嚥下したのが分かった。








忍足先輩は舐めるように私の身体を上から下までゆっくりと見ていく。

















その眼は興奮・・・・




というよりも信じられない物を見るかのような









そんな驚きに溢れていた。
















しかし、彼が一番眼を留めたのは



豊満な胸でも




昨晩、男に付けられた体中に散ばるキスマークでもなく











・・・・・何でもなく・・・




















私の左太腿だった。
















「何や・・・・・・これ・・・・・・・?」


彼は先程知らずに触っていた、内側から前方の太腿に掛けて存在している『ソレ』を今度はきちんと確かめるかのように撫でる。













「・・・・・・・・・・ん・・・・・」


思わず変な声を上げてしまって、私は似合わず気恥ずかしくなってしまい思わず目を閉じた。









「これが感じるんか?エロい顔して・・・・・。」



「そ・・・・・そんなんじゃ・・・・・・。」











本当にそんな物ではなかった。





これが快楽だったらどんなに良いだろう。



















実際は全く逆なのだ。


























まるで波、だ。








次々に『恐怖』という感情の波が私を襲う。













普段、客達とセックスする時は上手く隠しているのだが・・・・・・・


















今日は色々と不意打ちが多くて、そこまで気が回らなかった。



大失態だ。

















忍足先輩は一度だけ確認するように私の顔を見たけど、すぐにソコへと視線を戻す。





そして、私の反応を楽しみながらそれをその細くて長い指で撫で回すのだ。








「これ、自分で彫ったんか?」



「・・・・違う・・・・・・・。」






「ってことは、このキスマークを付けた彼氏とやらに彫られたんか・・・・?」

不愉快そうに眉を顰めながら、忍足先輩の指がたくさんあるキスマークの一つをピンッと弾く。





「そんなんじゃない。」












色々な顔を見せる






彼はその怪しい女のまた新しい一面を見れたことが嬉しく、先程まで押されていた自分が優位に立っているという今の状況が楽しくて仕方が無いようで・・・・





彼はゆっくりと眼鏡を外しながら、口の端だけで笑った。













「素晴らしいなタトゥやなぁ・・・・・・・






青い薔薇か・・・・?」





そう。

内腿の辺りに咲くのは一輪の青い薔薇。






長い間、この世に存在するはずのないと言われてきた


青い青い・・・・・・真っ青な薔薇。











「少し前までは「不可能」の代名詞までされていた青い薔薇を彫るとは洒落たことをするヤツもおるもんやなぁ・・・・・。



お前はそれほどまでに貴重な女やってことか?」












そう言って、忍足先輩は笑みを深くすると、













私の足の間に顔を埋め





内腿のその青い薔薇へと優しくキスを落とした。















真綿で温かく包み込むかのように








優しく














触れるか触れないかの







ささやかなキスを。

















私と彼の長くて短い夜はこうして始まった。






























私たちはカルマの渦からは決して抜け出せない。










どんなに足掻いてみたって


















不可能なことはこの世に確かに存在するんだ。




























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