今日は夢を見ることなく深い眠りにつけた。







久々の快適な眠りだった。










それは昨日あれだけ歩き回って疲れていたからだろうか。



それとも一風変わった面白い人たちに出会えて少し胸の中の塊が少しとれたからだろうか。













私はやけにはっきりとした意識で起き上がると、すぐに机の上においてあった携帯に手を伸ばした。













そう言えば、氷帝に通い始めてから一度も携帯開いていなかったりすることに今更ながらに気付く。



携帯は私にとって『客』との連絡の手段でしかなかったから。


















登録されている人は20人にも満たない。






そして、そのうちの全員が『客』。


もっというなら『信頼出来る』客。






信頼出来る人にしか私は連絡先を決して教えない。

だから、コレだけの人数しか登録していないのだ。




実際、セックスした人数で言えばこれ以上いるだろう。



つまり、登録してない人は大抵一度っきりの人。







ただ、それだけのことだ。














携帯を落としたり誰かに見られてしまったときのことを考え、『友達』というグループに分類されている『信頼出来る』彼ら。














私は自嘲気味に笑う。



まさに言い得て妙だ。






『友達』







利害関係が一致し、お互い与えられるものを与え、足りないものを補い合う存在。

信頼から成り立っている関係。








それこそ『友達』だ。


私と彼らは『友達』なのだ。



















私は間違っていない。







絶対に間違っていない・・・・。












例え、世界中の人が私を間違っていると言っても





私だけは私の味方だ。






















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   23 -impronta
-



















開いた携帯に映ったのは100件近いメールとそれ以上の着信。


当然全て『客』からのものだった。









私は携帯を開いたままベッドに腰掛けると、全ての送信者の名前をしっかりとチェックする。




ずらっと並んだ名前を見ながら、私は無意識にあるはずのない名前を探していた。








『昨日会った』彼らの名前を。










ある訳がないのに。



だって・・・・











「教えてないのに分かるわけない・・・か・・・・・。」











そう。

『信頼出来ない』彼らに連絡先を教える訳がない。






というかそれ以前に千石さん以外とはそういう話すらしていない。


初めて会ったのだから当然のことなのだが・・・。
















私は、全ての着信履歴のチェックを行うと、足跡が残らないようにメールの内容も確認せず、戸惑うことなく全て削除した。









いきなり真っ白になるメールの受信ボックス。







それは少し寂しくもあり、けどそれ以上に安心した。


やはりこういう状況の方が何故か落ち着くのだ。








そんなことを考え、私は

携帯に向けられた視線をベッドの隣に置いてるゴミ箱へと向ける。


その中には、丸めたちり紙と張り替えたシップと一緒に





昨日千石さんにもらったカードがビリビリに破かれて捨てられていた。













破いたのも捨てたのももちろん私。
















だって・・・・












いらないものだから。



















当然、登録もしてなければ、こちらから連絡する気も全くない。






だから、彼からのメールも電話もあるわけがないのに。


















何だか、ポッカリと胸に穴が開いたような気持ちになるのはなんでなんだろう。













その疑問に私が答えられるわけも無く、

私は慣れた手つきで片手で携帯を閉じると、そのままバッグのところに向けて放り投げ、









そして。







再び何事もなかったかのように氷帝学園の制服に手を伸ばした。























◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






その日の学校での注目度は凄かった。




太郎さんに今日の朝練を免除してもらった私は、朝のHRが始まる一分前程に教室へと入った。










その瞬間。




転校してきた初日の挨拶の時以来の視線が一気に私の方に向く。



ざわめく教室に、好奇と哀れみの視線が溢れかえっていた。








私に注がれるそのたくさんの視線に今更ながらに自分が杖をついていたことに気付いたのだった。









けど、ある意味これを望んでいた私は特に気にもせずに慣れない杖を付きながらノソノソと自分の席へと向かう。


途中私を呼び止めようとするヤツらの声が聞こえた気がしたが、それすら気にも留めずに、ただまっすぐ自分席だけを見て歩いていた。






そして。


空いた方の手で椅子を引こうとしたときだった。


















椅子が勝手に動いた・・・・






・・・・・訳も無く、どうやらわざわざ彼が椅子を引いてくれたらしい。










・・・・・。お前その怪我どうしたんだ?」




今、目の前で眉間に皺を寄せて私を睨み付けている日吉が椅子を引いてくれた人だった。













私は一度だけ彼を一瞥すると、すぐに視線を外し、


「ありがとう、椅子引いてくれて。」



彼の顔も見ずに、背中に背負ったリュックを床の上に放り投げる。






ドスンという重い音がバッグの意味も無い重さを物語っていた。









隣で黙って立っている日吉のことなど見向きもせず私は杖を椅子の横に寝かせると、そのまま椅子に座る。


















「もうHR始まるよ。席に着いたら?」



隣に立って私を睨み付けるように見下ろしている日吉の姿にさすがに居た堪れなくなって私は目も向けずにぶっきら棒にそれだけ言う。







それが、『詳しい理由は話したくない』という私の拒否と受け取ってくれたのか、日吉は「あぁ・・・・・」とだけ言うと彼は少し名残惜しそうに私を見つめ、私の隣の席へと着いたのだった。














授業中も度々、日吉の視線を感じたが、私は悉く無視した。











そしてもう一つ。

クラスメイトからの好奇の視線とは別に、何か殺気のようなものを含んだ強い視線を感じていた。






それが誰なのかは私には特定出来なかったが、何となく私を暴行しようとした男達と関係があるような気がした。


















が、それを突き止めようとは思わない。




相手が仕掛けてくれば仕掛けてくるほど反撃のチャンスは増えてくる。










空気を入れ続けた風船のように。



私はただその人達が自滅するのを待つ。





















私にもしすべきことがあるのだとしたら、





それはそうなるようにゆっくりと着実にそちらへの道を作っていくだけだ。














それを考えると、この最悪の状況すら楽しく感じるから不思議だった。




それに。


私は視線は向けずに気だけそちらに向ける。





やはりジッと私を見ている日吉。






今日はどうやら日吉の視線が気になりすぎて、逆に授業に集中出来そうだ。




そう思うと、少し勉強も楽しく思え、私は普段はほとんど授業中は扱うことの無いペンケースからマーカー類を取り出すと、先生が早口で言ったところを的確に色分けしていったのだった。





















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆








そんな感じで氷帝に来て・・・・というよりも今まで学校生活を送ってきて初めて授業を楽しいと思うという貴重体験をしてしまった私は柄にも無く結構上機嫌だった。









しかし、それでもやはり今日最後の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた瞬間。








何とも言えぬ絶望感に苛まれずにはいらなかった。











私は机の上に平伏すように両手を伸ばして机に頭を擦り付ける。





今まで通った一般の学校の物とは明らかに違ういかにも高級そうな机。


―私はあのボロっちい感じの方が好きだけどね・・・・







内心そう呟きながら私はテニス部へ行く時間を少しでも延ばそうとしばらくの間そうやって机の上に頭を付けていた。




































それから一体どれくらいそうしていただろうか。

やっと顔を上げたときにはすでに1/5程度の人間しか教室には残っていなかった。





本当はずっとこのまま時間を過ごしたい。


だけど。

このままずっとそうしている訳にも当然いかず、私は色々な意味で重い足を引き摺るようにしてテニスコートへと向ったのだった。


























そんな私を出迎えたのは部員達の好奇の目と・・・・意外にも





。てめぇ、遅れてくるとは良い度胸だな。」







跡部部長だった。
















私の上から下まで一度しっかりと舐めるように見渡すと、彼は唇の端だけで笑った。






「怪我して大変だったなぁ。今日はゆっくりとベンチにでも座って見学していたらどうだ?」

そう言った彼の目には明らかに嘲笑が含まれていることに私が気付かない訳がなかった。











「結構です。俺はマネージャーの仕事をするためにここにいるんですから。」


本当ならサボってやりたいところだが、彼の言うことには決して従いたくない私は間髪入れずそう答えていた。






私のその言葉に成り行きを黙って見守っていた部員やマネージャー共は口々に


「折角の跡部様の優しさを・・・」

だの



「一体、あいつ何様だよ・・・・」

だのと騒ぎ始める。



が、そんな愚かしいヤツらのことなどはっきり言ってどうでも良かった。









だから今の私は気付きもしていなかった。


その中で、先輩とアリスが物凄い形相で私を睨み付けていたことなど・・・・・







全く・・・・。







そしてもう一人の特別な視線・・・・・・


周りのヤツらとは正反対の・・・・・それ・・・・・・・・・・。




それにも私は気付かない。

気付くはずがない。





だって、それは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
































「まぁ良い。だったらしっかり働けよ。口だけじゃないところを見せてみな。」



「はい。分かりました。」


抑揚の無い声で私は呟くように言うと、早々と踵を返しドリンクを作るためにその場を後にしたのだった。














途中、芥川先輩と目が合ったけど。



私の方から視線を反らす前に彼の方が先に私から目を反らした。











何も知らない私は

―所詮、テニス部か・・・・・



馬鹿にするように心の中でそう吐き捨てていた。

















そう・・・・


誰にも聞えないほどの小さな声で






「ごめんね・・・・」

と芥川先輩が呟いたことなど私が知るはずも無く・・・・・・・。




























しかし本当に大変なのはそれからだった。



余程、さっきの跡部様への無礼な振る舞いが癇に障ったのか、





「マネージャー、これ洗っといてくれよ。」


「球が泥の中に入ったから、全部綺麗にしといてくれ。」


などなどと、今日は今まで無いほどに仕事を押し付けられた。











泥って・・・・・雨も降っていないのに一体何処に泥があるというのか。













本当に泥まみれの球を見ながら私は、あまりに幼稚なことをするテニス部員達に呆れ果てる。







どうでもイイコトはどうでもイイ主義の私だったが、


「はぁ・・・・・・・」


―やるか・・・・・






氷帝のテニス部だけには何故か絶対に負けたくなかった。





そう。

絶対に・・・・。









大量に汚れた球を目の前にして私は深々とため息を漏らすと、


覚悟を決めて、球に手を伸ばす。








まだまだ、仕事は山のように残っていると言うのに・・・・



空はすでに太陽を隠そうとしていた。

















テニスボールを一つずつ洗っていくうちに徐々に赤みを帯びていく空。











オレンジ色のその世界が、

何故だか、たった一日・・・・いや数時間会っただけの彼を思い出させた。






もう二度と会うことは無い人なのに。






彼はいつか思い出になっていくだろうか。

夕日を見るたび私は彼を思い出すのだろうか。





―それも良いかもしれない。

そう考えるだけで胸の中に沸々と湧き上がる不思議な気持ち。







その中に確かにあるのは、彼の明るいオレンジ色の髪と、屈託の無い明るい笑顔だった。






幸せな『思い出』がない私にとっては一日だけの彼らの思い出はきっと『大切なもの』となっていくのだろう。

それはきっと一日だけだからこそ生まれることが出来た幸せな思い出。





だって、私は彼の笑顔しか知らないから。














別にそんな『思い出』などいらないが、

それでも一つくらい気休め程度に持っていてもいいかもしれない。















いつか・・・


いつか・・・・










お金を溜めて




幸せになって












そしたら私はようやく彼のような綺麗な笑顔を出せるのかもしれない。







そう信じて、私はこれからを乗り切ろう。


















幸せになるために。





認められるために。












その想いを忘れないための『思い出』


自分を見失わないための『気持ち』













きっと私が幸せになることが











私を捨てた父さんと母さん。




私を憎んでいる太郎さん。







私を蔑むよう見ている氷帝の連中。










・・・・全てを見返し復讐する唯一無二の方法なのだ。








そう信じている。



だから、私は立ち上がれたんだ。












いつだって・・・・・・・・・・




















































ようやく仕事を終えたときにはすでに辺りは真っ暗になっていた。


跡部部長達と帰る時間を遅らせるために仕事をする振りをしてかなり遅い時間に部室に戻ることは多かったが、これ程までに遅くなったことは今まで無い。




けど、レギュラー達を顔を合わせたくない私にとっては好都合だった。

















まさかいるわけがないだろう。

と思いながらも今までの経験からどうしても不安を拭いきれない私は、少し部室の扉の前で立ち止まって中の様子を伺う。

どうやら、電気も付いていないし、中から物音一つしないことから考えても今日は『最中』ではないらしい。









「とか言ってこれでまたヤってる最中だったら笑うよな。」




そう言って自嘲気味に私は口の端だけで薄く笑うと、ドアノブへと手を伸ばす。















中はやはり外と同じで真っ暗だった。

物音一つしない。






スイッチの場所が分からず、私は入り口近くの壁を這うようにしてスイッチを探し、何とか見つけ、ようやくスイッチを入れた。














突然明るくなる部屋。



私は眩しさに少し目を細めながら、周囲を見渡す。










―誰もいない・・・・・









いつも跡部部長がこれ見よがしにセックスしている場所にも、宍戸先輩達が雑談している場所にも。





今日は誰もいなかった。













いつもは賑やかしいこの部屋があまりにも静かで、それが何だか変な感じでもあり、まるで違う場所のようだった。


華やいで見えた部屋も彼らがいないと何だか物寂しい空間に見えるから不思議だ。















「はぁ・・・・・・・・・・・・・・良かった・・・・・・・。」


私は深々とため息を吐きながら思わずそう呟いていた。














































「何が良かったんだよ?」











「・・・・・・・・・・・えっ?」


突然聞えてきた声に、私は驚くことすら出来ずにゆっくりとそちらを振り返った。


















奥の部屋。

確かトレーニングルームになっているらしいと聞いたことはあったが。






入ったことが一度も無く、その存在自体目にすることが無かったため私は奥に部屋があることすらすっかり忘れてしまっていた。













「跡部がおらんで良かった・・・・っちゅうことやないか?


なぁ・・・・・・ちゃん?」



そう言って最奥の扉の前に見えたのは、何故か疲れきった顔の忍足侑士と












、おっかえり〜〜〜〜〜〜〜〜♪♪♪」









今まで見たことも無いほど満面の笑みで私を出迎える






向日岳人の姿だった。

























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