『寒い・・・・』









『寒いよぉ・・・・・』






















瞳から流れ落ちる涙も凍り付いてしまうのではないかと思った。






そんな寒い夜。








それが私の始まりの日でもあり、終わりの日だった。











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1 -giornaliero-






















ぺチャ・・・ぺチャ・・・・ピチャ・・・・・・・














静かな部屋に響く粘着質なその音。



初めは恥かしかったそれも、今ではもう私自身を奪うだけのものでしかない。












「んっ・・・・・」



目の前にいるおっさんが少し身体を震わせた。

それと同時に私の口の中に青臭い白い物を吐き出す。














私はおっさんのそれから口を離すと、口の中に溜まっている白い液体を飲み込む。


ベッドに座っているスーツ姿のおっさんは上は着たままで下だけを脱いでいた。

床に座っている私はゆっくりとおっさんを見上げる。








下だけ裸のおっさん。


何て滑稽なんだろう。




しかし、そう思うだけで、私の感情を動かすことはない。
















いつの頃からだっただろう。

何も感じなくなったのは。







じっと見上げている私の視線に気付いたのか、おっさんが少し息を切らせながら、充血した目を私に向けた。





ちゃん、私の横に座って。」


私は黙っておっさんの隣に密着するように座る。




おっさんは黙って私の肩に手を回した。













「ねぇ、ちゃん?キスしても良いかい?」


「別に良いよ?ってかそんなことわざわざ聞くの?」



おっさんは表情を変えずにそう呟く私に少し瞠目した後、口元を歪めた。


欲望に濡れたその気持ち悪い表情も、今では何も感じない。












私の顎をおっさんの指が掴み、上を向けさせられる。


「いや・・・・こういう事をやってる女は大抵、唇は彼氏だけ、とか言うからね。」


「ふーん・・・・意味分かんない。ヘンなの・・・。」








そう言った瞬間、ふさがれる唇。













おっさんの生暖かい舌が私の口内に侵入する。


私の舌を絡め取るように・・・先ほど自分が出したものを自分で舐め取るかのごとく、私の中を激しく動き回る。

徐々に角度を変えられ、深く深く口付けられる。







溢れ出た唾液が顎を伝い私の肌を塗らした。




微妙に生暖かいそれが何だか気持ち悪い。












実は、キスだけは未だに慣れない。





自分の中に自分の物では無いものが侵入するその異物感。

生暖くやわらかい物が自分の舌に触れるその瞬間。













胸の奥からどっと吐き気が込み上げる。










異物が入れられるのは下も同じだし、アレを口で奉仕するのだって何とも思わない。










なのに、何故『キス』だけは駄目なんだろう・・・?





それは分からない。








というか、そんなこと深く考えようとしたことも無い。






















その理由を知ったからと言ってどうになるものでもないから。


















嫌いなキスを許す理由は・・・・・












ゆっくり離れる唇。





彼は少し私を見つめた後、何も言わずにベッドから立ち上がり、下着とズボンを身に着けた。

その間私はベッドに座ったままじっとその様子を見ていた。










ベルトまで締め終わると、おっさんは財布を取り出す。








ちゃん、やっぱり君は最高だよ。今日はいつも楽しませてくれるお礼に少し多めにあげよう。」



そう言って私に向かって差し出される数枚の福沢諭吉。


それを私は手に取ると、私は微笑を浮かべる。











こういうことやってるとどうすれば相手が喜ぶかが何となく分かってくる。


笑顔もその一つの道具。











私の微笑みを見た瞬間、おっさんの頬が紅潮する。



そして、また口付けられた。

















「また、頼むよ。」








そう言って男は名残惜しそうに部屋から出て行った。






机の上にはもう一枚福沢諭吉が置かれていた。















そう、私がキスを拒まない理由もそれ。






キスもまた客を喜ばせる一つの手段なのだ。






客を喜ばせれば、相手も金を上乗せしてくれる。



そして、客の間で良い評判も広まり、客がまた増える。











そうすればもっともっとお金が入る。










お金が入れば、欲しい物が何でも手に入る。











良い事尽くめだ。


















おっさんが部屋を出るのを確認すると、私は脱ぎっぱなしにされた衣服を拾い、身につけていく。

ふと、目の前にある大きな鏡が目に入った。













時々、相手が行為の最中に私を辱めようとこれを使う。



別に男を銜えたところを見せられたって何も思わないのに・・・・

















だけど、男達は何が楽しいのかそれをする。


だから、私も恥かしがるフリをする。








全ては演技。







私はその鏡を見つめた。

大きな鏡に映る私の身体にはいくつも赤い物があった。







何となくその赤い物に触れてみる。




痛くも無いのに、赤くなってるそれが何だか不思議だ。

















「馬鹿みたい・・・・」



それは一体誰に言った言葉だったのか。






私自身に・・・・?

それともこんなのを付けたがる男に?















恐らく答えは両方だ。










人間なんて皆愚かだ。








私も含めて、皆愚かで・・・・

気持ち悪い。


















しばらくジッと自分の身体を見ていたが、

不意に目に入った時計を見て、部屋を出なければならない時間が迫っていることに気付く。






急いで衣服を身につけた私は、





テーブルの上に置いてある金をバックに押し込み、












そして、情事の跡を残した、その場所を勢い良く出て行った。












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