「何してんの、って俺は聞いてるんだけど?」







突然の芥川先輩の乱入に男達は慌てふためき、芥川先輩の声などまともに聞こえていないようだった。



ゆっくりと歩み寄ってくる芥川先輩を目を見開いて凝視している。








もはや言い訳の言葉すらその口からは出てこなかった。

















「今から5秒以内にこの場から消えてくれないかな。





ソレより先に俺の視界に入ったら・・・・・・・」










そこで芥川先輩の口が静止する。


その時の芥川先輩の顔は無表情の中に怒りが溢れ出していた。



















普段の彼からは想像出来ない雰囲気だった。


その証拠にあまりの恐ろしさに男達は震え、驚愕と恐怖の表情が現れている。








普段明るく、優しく、穏やかな彼だからこそ、男達は信じられないし、恐ろしいのかもしれない。









脅えた彼らを見下すように睨み付けると、


芥川先輩はわずかに顎を上げ、先程の言葉の続きを口にした。























「二度とテニスコートに入れないようにしてやるから・・・。」




















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   16 -collera-




















「あ、あの・・・・芥川先輩・・・・・・」





普段とは打って変わったような芥川先輩の姿に男達は震えていた。





内心、数秒前まではここに現れたのが芥川先輩であったことに安堵していたのだろう。




普段ボーっとしてて能天気そうな芥川先輩であれば何とでも言い訳出来る・・・と。
















しかし、それは男達の考え違いだった。








むしろ、このことに関しては芥川先輩が一番ヤバかったのだ。
















何故なら芥川先輩だけが唯一テニス部レギュラーの中で私に対してプラスの感情を持っているから。




そのことをこの時の私は当然知る由もなければ、別に知りたくも無かった。






そして。

男達も当然彼の心の中など知るはずも無いのだ。










だから男達は本気で怒っている芥川先輩を見てようやく怯え始める。



彼らは混乱した頭でとにかく言い訳を探す。












そんな彼らを見て芥川先輩はフンと鼻で笑った。




「言い訳なんて聞きたくもないし、どうでも良いから。早く俺の視界から消えてよ。不愉快。」


そうゆっくりと言い捨てる。







口調も話すスピードも普段と大差あるわけでは無い。








しかし、彼らをここまで脅えさせているのは。





表情。








口元を僅かに歪め、目の前に立つものを見下すかのような眼で見つめている。

普段の誰にでも優しく笑顔で接する彼と同一人物とは思えない。








表情が変わるだけで、これほどまでに人を脅えさせることが出来るものかと思わず感心してしまう。










きっと、今の彼だったら本気で「すぐに目の前から消え」ないと二度とテニスコートに足を踏み入れることが出来ないようにするだろう。


今の彼にはどんな言い訳も通用しない。






それを分かってない愚かな者達が一生懸命言い訳を考えようとして、泥沼にはまって行くのだ。


















「おい!行こうぜ!!」


一番最初に懸命な判断をしたのはいつも中央に立っているリーダー格の男では無く、カメラを持っていた男でも無く、3人の中でもっとも影が薄いヤツだった。





影は薄いが一番賢いのは彼らしい。








「えっ・・・・・でも・・・・・。」





「5〜」


まだ、懲りずに渋るリーダー格の男に芥川先輩は不機嫌そうに眉を顰めると、とうとう痺れを切らしてカウントを始める。


男達の顔が一瞬にして青褪め、ビクッと大きく震えたのがはっきりと分かった。







「4〜〜〜〜」

のんびりしたいつも通り芥川先輩の声。



けど、その声は男達の心を凍りつかせるのに十分だった。











「3〜〜〜〜〜〜〜」



容赦なく進む声。









きっと芥川先輩はこのまま0になるまで彼らがいたとしたら、本気で彼らに制裁を加えるつもりなのだろう。












彼の声が緩むことも、戸惑いも全く無い。


むしろ、彼の目はこのまま制裁を望んでいるかのように見える。






それをしないのはきっと、何かの存在がそんな彼の心を留まらせているから。


















「に・・・・・・・・・・・・」









次のカウントが口に出されようとしたときだった。



























「俺はもう行くからな!ここにいるのなら勝手にしろ!!」


とうとう我慢出来なくなった先程の大人しそうな男が叫ぶようにそう言うと、そのまま走って部屋から出て行く。


















その後は早かった。


一人の仲間がいなくなったことで、残りの男達の恐怖が一気最高潮へと登り詰め、










顔を引きつらせながら。


足を縺れさせてこけそうになりながら。









残り2人も追うように走り去って行った。










芥川先輩は自分の隣を走り去る男達を冷徹な瞳で横目に見送っていた。





しかし、何も言わない。













振り返ることもせず、

ただただ・・・・・・・








そんな彼を私は朦朧としながら見つめる。





彼がどうしてこの場に現れたのか、何故私を助けたのか


そんなことは分からない。





それが気まぐれでも、要らぬ正義感からでもそんなのどうでも良い。
















とりあえず、助かった。



それが確かな事実だ。

















でも・・・。







―私は・・・・・・










・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・















ふと思い浮かんだ考えに、私はハッとする。








頭の中が一瞬にしてクリアになり、そしてそれによって襲ってきたのは羞恥心と罪悪感。














意識がクリアになったことで激しい痛みが私を襲う。








でも。

それでも。



私は、この状態でいるのが嫌で堪らなくて、痛みなんか気にしない振りをして勢い良く地面に両手を付き、体を起こす。






「ちょ、ちょっと!!頭から血が出てるよ!!」

私の行動に驚いたのか、芥川先輩が慌てながら私の方に駆け寄ってくる。















その行動が


























不愉快だった。




















私は頭から血が出ようが、激しい痛みに襲われようが。

構わず一方の膝を付き、表情を変えることなく立ち上がる。











「動いちゃダメだってば!死んだらどうするんだよ!!」

彼は私の肩を支えようと手を伸ばす。











『死んだらどうするんだよ』


同じような言葉を吐いたヒトがいた。



その時私は迷うことなく答えた。





「死ねば良い」と。










そうだ。

私には最後の逃げ道があるのだ。










何も恐れることは無いんだ。




















バシン!!













「え・・・・?」

何が起こったのか彼は一瞬理解出来なかったのだろう。



そりゃそうだ。


だって私は今、私を助けてくれた、しかも私に優しく手を差し伸べてくれた人の手を振り解いた・・・・
いや、それどころか叩き落したのだから。



















「大丈夫ですから!!」










顔を見ることが出来なかった私は、俯いたまま吐き捨てるように、怒鳴りつけるようにそう言った。




「で・・・・でも・・・・。」

彼の顔は見えなかったが、泣きそうな状態であることは声から読み取れた。









けど、それでも私は彼の顔は見なかった。

その代わり、私が叩いた手に視線をやった。







少し赤くなった彼の手だけが目に入る。




















自分の汚さに、愚かさに泣きそうになった。











でも、涙が出ない。










そんな自分がもっと虚しい。







グッと奥歯を噛み締める。









「助けて下さってありがとうございました。けど、もう大丈夫ですから・・・・」

そう言って私は視線を上げた。












それは拒否の言葉。


正しく言うなら拒否を含んだ言葉。











芥川先輩がそれに気付かない可能性もあった。














けど、芥川先輩はその意味に気付いたようだ。



目を見開いて、悲しそうに顔を曇らせた彼の表情がそれを物語っていた。






けど、罪悪感なんて全く無かった。












私は無意識に足を引き摺らせながら部屋を出て行こうとする。




早く歩けなくてゆっくり扉へと向かった。

それほど扉から離れてはいないのに、物凄く遠く感じる。









そして、その間、芥川先輩は一言も発することは無かった。





無言でじっと私を見つめる。





























一体それからどれくらいの時間が経ったのだろう。



ようやく扉まで辿り着いた私は外に足を一歩踏み出す。









入ったときからそれほど時間がたっているわけではないのに、何日もいたかのように・・・・

まるで、久々に外に出たかのように。







目に映った景色が新鮮に感じた。
















流れ込む空気が私の髪を撫で、靡かせる。

昼間は暑い風も夜になると冷たくて、汗をかいた私にとっては凄く気持ち良かった。










私はもう一歩前へと踏み出す。




















その時だった。

背後から誰かが動く気配がしたのは。



誰かと言っても、今この場にいるのは私の他に残り一人しかいないのだから・・・。











「ちょっと待って!」





突然、背後から声をかけられ私は少し驚く。




芥川先輩はずっと黙っていたからもう呆れ果てられていたのかと思っていたが・・・・











私が振り向くことは無いと分かっていたのか、彼は自分が、小走りで背後から私の目の前に飛び出る。





「これ、使って。」




そう言って彼が私の目の前に出したのはチェックのハンカチ。


ぐちゃぐちゃのハンカチ。













「汚い・・・・・・。」

思わずそう呟いた。







その言葉に芥川先輩はハンカチをギュッと握り締め、

私の手を強引に取ると無理矢理手に握らせる。






「見た目は汚いけど、まだ洗ったばっかりだから!使って!!!」



それだけ言うと有無を言わさずに彼はそのまま猛烈な勢いで走り去ったのだった。














私は少し汚いぐちゃぐちゃのハンカチを見つめた後、そっと額に当てる。


血はもう固まってしまったのかハンカチに血がつくことはなかった。









けど、何だか妙に心地良くて、私は押さえたまま再び歩き始める。










「痛っ・・・・・・・」



芥川先輩がいなくなってようやく安心したのか鈍く分かりにくかった痛みをはっきりと感じる。

そして、自分が左足を引き摺って歩いていることに気づく。






「ホントに情けない・・・・・」



そう呟いて見たのは自分の格好。











ズボンのフォックが外れ、ファスナーが少し下ろされているものの、思ったほど服を剥がされていなかったことに安心した。

胸も押さえつけて分からないようにしているし、男物の下着も身に着けているため、きっとこの程度ではばれなかっただろう。

















けど、自分が情けなくて仕方が無かった。



















泣けたらどんなに楽か。





















倉庫に入ったときは明るかった空も今では暗闇。








今日は満月だった。
















黒い闇に堂々と存在する満月が白く輝いていて、暗闇を照らす。






まるで、白い闇のようで。







美しかった。





















涙が流れない瞳でしばらく白い闇を見つめる。



























泣きたい。






そう思いながら。

















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