ジリリリリリリリリーーーーーーーーーー!!










目を覚ますより先に私は耳元で鳴り響く目覚まし時計のボタンを叩いていた。




何となく脳は起き始めているが、目が重くてどうしても開かない。


私は枕に顔を埋めると目覚まし時計の脇を抱えたまま目が自然と開くのを待つ。




あの事件が経ってからもう一週間が過ぎようとしていた。




相も変わらず女達は全くマネージャーとしての本来の仕事はしようとせず、

相も変わらずレギュラー達は毎日のように部室でセックスしている。




宍戸との一件があってから、女達は鳴りを潜めているものの、こそこそとこちらを向いて何かを言っていたりと何かを企んでいる様子は見て取れた。

















しかし、私のストレスの元凶はそんなものではなかった。





どんなに時間を遅らせ部室に戻っても、いつも彼らはセックスの最中で、いつもセックスの匂いと音に溢れていて、私の気分を悪くさせる。






一体何時間やったら気が済むんだ、と何度も言ってやりそうになったが、もうこいつらを関わりたくないという想いがどうしても打ち勝ってしまい、私は何も言えずに黙って着替えを済ませると黙って部屋から出て行くことしか出来ないのだ。











幸いなことに、一週間経っても私は彼らの行為に対して嫌悪感は消えないし、それを普通のことと思うことはまだ無理だった。







だけど、一日一日が経つにつれ水面下で着実に日常の一ページとなりつつあるのでは無いかと私は恐くて仕方が無い。



















「学校行きたくない」なんて誰でも一回は言ったことがあるんでは無いかと思うくらいよく聞かれる言葉。


だけど、学校なんて行きたくなければ行かない、気が向いたときに行けばいい・・・

そんな学校生活しか送ったことがない私にとって「学校に行きたくない」と思うことはとても不思議なことだった。








だって、学校行かなくても怒る人はいないし、私が悪いことをしても泣く人もいないから。








ジリリリリリリリリリーーーーーー!!







目覚まし時計が再び耳元で鳴り始める。

まだ、一度目鳴ったときからそう時間は経ってないように感じていたが、この時計は5分置きになるようにセットしているので、つまり5分は経っているということだ。














下が何だか騒がしい。

きっと、例のメイクアップアーティストが来てくれたのだろう。






全く、ありがたいのか迷惑なのか分からない話だ。






私は周囲の雑音から逃れるために、勢い良く薄目の毛布を頭から被る。

毛布の中で私は顔を埋めていた枕から横を向くようにして少しだけ顔を上げ、そして重過ぎる目を開いた。










「学校・・・・・・行きたくない・・・・・・・」

自然とそんな言葉が漏れていた。











こんな普通の言葉が自然と口にすることが出来るなんて、

何だか普通の学生みたいだ。



ちょっとだけそう錯覚してしまった。
















カーテンを閉め切った部屋。


もう朝なのに私の部屋には光が差し込まない。













110   

   10 -futuro-













ギリギリまで学校に行くことを拒んだ私だったが、太郎さんに一言


「ゲームは私の勝ちということだな。」


と言われると、何だか行かざるえない気がして私はしぶしぶ着替えを始めたのだった。






朝っぱらからいつもの調子で優雅に茶を啜っている太郎さんが本当に憎たらしく感じた。














「ねえねえ!ちゃん〜!」

メイクも終わり、一緒に朝食をとっていたメイクアップアーティストの小暮さんがパンを口に頬張りながら声をかけてくる。




私の斜め前に座っている彼はテーブル越しに私の方に身を乗り出し、ジロジロと顔を覗き込んできた。





彼の視線から逃れるように身を捩じらせ、私は僅かに眉間に皴をよせる。


「・・・・なんですか・・・・小暮さん・・・・?」



彼の目が一瞬にしてカッと見開かれた。












「いやーーーん!小暮さんだなんて〜〜〜〜〜♪ビューティって呼んで〜〜〜〜〜♪」



そう言って彼は私に思いっきり抱きついてきた。


突然の行動に私は思わず、手に持っていたコップを取り落としそうになる。


大体何だ、そのビューティというそのまんまのネーミングは!












「ちょ・・・・小暮さん危ないです・・・・・。」

彼は私の胸元に抱きついたまま体をくねらせる。




「もぉ〜!ビューティって呼んでくれるまでは・な・さ・な・い♪」








男の癖に女の私よりも女らしいオカマのメイクさんに私はたじろいだ。






雑誌で見たときは結構な男前で、しかも若いのに立派なこと言ってて少しだけ尊敬しかけた時もあったのに・・・・













私はまだ胸元に抱きついている小暮さんを見下ろす。





(何だ、このギャップは・・・・・。)




人間って分かんないものだと思った。
















不意に額に手の感触を感じ、意識が飛びかけていた私はハッとする。


いつの間にやら小暮さんの綺麗な人差し指が私の眉間に触れていた。





「そんな恐い顔してたら、折角の綺麗な顔が台無しだゾ!」

そう言いながら彼はもう一度私の眉間をポンと突く。










「2人とも、遊んでる暇があったら早く朝食を済ませなさい。遅れるぞ。」


向かい側に座って、やはり優雅に紅茶を飲んでいる太郎さんが、やっぱり優雅に足を組み替えながら低い声でそれだけ言った。




瞳は下を向いており、彼の目は私達に言葉をかけている間も決して私の顔を見ることは無い。

いや、氷帝学園に通うことになってから一度もまともに私の顔を彼は見ないのだ。










太郎さんの言葉に小暮さんは名残惜しそうに私からゆっくりと手を離すと、すぐに食事に手を伸ばした。

再び静かな食事が始まる。
























私はこんな静寂が好きだ。

静かなところで一人で暮らしたい。




誰にも干渉されずに、一日のんびりと過ごしたい。





それが私の望む生活。

理想の現実。


















だけど、今日の静寂は何か心苦しかった。










人間なんでも意識してしまうと気になってしまうもので・・・



きっと、これもソレなんだと思う。












だからと言って私がその静寂を破ることは出来なかった。


何を話したら良いのか全く分からないのだ。







毎日が演技の私。

今も昔もそうだ。






演技ならいくらでも笑顔が作れるし、相手の喜ぶことなら何でも言える。

無意識のうちに次何を言えば話が盛り上がるのかが分かってくる。








けど、いざ元の自分に戻ってしまうと、無口で無表情で可愛さの欠片も無い

『私』なのだ。








今、私を私に戻すのは太郎さんだけなのだが・・・・














「あっ、そうだったわ!」

突然、しゃべり方と声が全く合ってない様子で静寂を破ったのは小暮さんだった。



驚いて小暮さんの方に視線を向けながら、私は内心ホッと胸をなでおろしていた。









そんなこと全く気にも留めない小暮さんは再びテーブル越しに身を乗り出し、私の方に顔を近づける。





「ねぇねぇ。ちゃんさぁ〜モデルやんない!?」



「は?」

突然の突拍子もない申し出に私は思わず素っ頓狂な声を上げてしまっていた。







「いや・・・・今は学校だけで大変なのでさすがに無理だと・・・・・」


「分かってる!だからね、学校卒業してからで良いの!!ちゃんがやりたいなぁ・・・・と思ったときで良いの!!」


半ば興奮気味にそう言うと、小暮さんがパンを摘んでいた私の手をギュッと両手で握りこむ。






パンのかけらがテーブルの上に無造作に散らばったのを私は見届けると、視線をわずかに太郎さんの方向ける。




我関せずとした顔で太郎さんはどこかの外国紙を読んでいた。


















本当に私のことなどどうでも良いらしい。







けど、もうチクリとも胸は痛まなかった。














だって、私は・・・・・・・・・・




































カチッ






スイッチが入る音がした気がした。














私はニッコリと微笑を浮かべる。



「分かりました。その時は是非よろしくお願いします。」




一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに瞳をウルウルとさせ私の手を改めて力強く握り締めなおした。





「ありがとう!!ちゃんこういうの嫌いそうだったから断れること覚悟してたのよー!ビューティ嬉しくて泣いちゃいそーーーー!!」


「いえ。小暮さんには大変お世話になってますので!私なんかに出来ることがあれば何でもしたいんです・・・。」









数秒、今度こそ完全に彼は目を見開いて硬直していた。





そりゃそうだろう。

彼と出会ってそう何ヶ月も経っている訳では無いが、それでも相手の人となりが大体分かってくるくらいの日にちは経っている。







その間の私と言えば、ターゲット相手だからじゃないから別に営業スマイルを作ることも無ければ、お世辞の一つでも言うことは無かったのだ。







そんな人間がニコリと微笑んでお世辞の一つでも言おうものなら、驚かない方がどうかしている。
















「な、何て可愛いの!!もうもうちゃん大好きよーーーーーーーー!!!!」



気付いたときには、大柄な小暮さんの体が私に飛びついてきていた。







力いっぱい抱きしめられ、息が出来ないくらい苦しい。










「こ、小暮さん・・・・息が苦しいです。もうちょっと力抜いてください・・・・!」


「いや!もう離してあげない!!可愛過ぎるわ!!」







褒めてもらえるのは嬉しいのだが、本当に窒息死しそうだった私は、一生懸命小暮さんの体を押し返す。


だが、ひ弱な私がそれなりに男として筋肉も付いている一人の男の人に力いっぱい抱きしめられて敵うはずも無い。













そんな死にかけの私を助けてくれたのは、予想外にも・・・・





「小暮、いい加減にしないとが死んでしまうぞ?」







太郎さんだった。























太郎さんに言われ、やっと冷静さを取り戻したのか、小暮さんがパッと私を解放した。



「ご、ゴメンネ〜!ちゃんが可愛過ぎて、つい・・・・。」


太郎さんの切れ長の瞳が少しだけ動く。





その姿はまるで睨み付けているかのようだった。











が、太郎さんはそれについてこれ以上介入するつもりはないのか、



「お前これから仕事が入ってるんじゃなかったのか?早く行かないと遅れるぞ。」







とだけ言って持っていた外国紙をテーブルの上に置くと席を立ち、何も言わずに部屋から出て行った。












「いや!本当だわ!!仕事遅れちゃう!!」




太郎さんの出て行く姿を見送ると、小暮さんもまた時計を見て悲鳴に似た叫び声を挙げた。










「ゴメンネ!これ、私の電話番号とメアド!やる気になったらいつでも連絡してね♪」

そう言って、彼は可愛らしい模様の名刺を手渡すと、私の頬を引き寄せキスをし、そのまま椅子を蹴り飛ばすようにして部屋から飛び出していった。





大きなバッグを抱えて走る小暮さんの姿が、さっきまでの印象とは違って凄く男らしくてちょっと面白かった。





















一人残された私も遅れて時計を見る。



時計はすでに家を出なければならない時間を指し示していた。













だが。


「遅刻はするな、とは言われて無いもんね。」








そう自分に言い聞かせるようにそう言うと、



私は太郎さんに負けないくらい優雅な手つきで見るからに高価そうなカップを口元に運んだ。































◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆





「遅い!」

そう呟いたのは眉間に皴を寄せ地団駄を踏んでいる向日だった。






「・・・・・・・・・向日先輩、何を苛々してるんですかね?」


が来ないからだろ?」







向日の背中を眺めながら鳳と宍戸は呆れた表情だった。

確かに練習開始の10分前に来るのが原則だが、まだ開始して5分しか経ってないのにそれほどまでに怒ることは無いだろうと内心ツッコミを入れていた二人だったが、それを言うと向日がまた騒ぎ出すので言おうとはしなかった。




大体、は一人でほとんどの仕事をしていて、普段なら遅くとも練習開始30分前には準備を始めているのだ。


今日、初めての遅刻なのだから、そこまで腹を立てなくても・・・というのが2人の本音だ。









「というか、朝練に他のマネージャー達は一人も来てないですけどね。」

鳳はそう言いながら周囲を見渡す。






確かにコートに煩いマネージャー達は一人も来ていない。

静かで良い事は良いとは思うのだが、やはり一人で部員達の世話をしているの姿を見て罪悪感が抱いたことがないとはさすがに言えない。




「まぁ、あいつらが必要なのは夕方だけだからな・・・・。」









隣の空気が変わった気がして、宍戸の声が徐々に小さくなる。







そっと脅えるように鳳の方を振り向いた瞬間、宍戸の額に冷や汗が流れ出した。




いつも穏やかで優しい鳳。



そんな彼が時折めったに見せないほど恐ろしい表情をすることがある。























まさにそれが、今だ。









穏やかで、子犬のような純粋な瞳が、一瞬にして鋭く変化し、底光りした双眸が相手を飲みこんでしまう。




渦巻く殺気に捕らわれてしまうと、まるで金縛りにでもあったかのように動けなくなるのだ。












鳳の引き締まった形の良い唇がゆっくりと言葉を紡ぎ出す。




「確かに、俺ものことは好きになれませんが、最近の跡部部長達の行動の方が俺は許せませんね。」


「長太郎・・・・。」




「大体、あの人達は悪趣味なんですよ。」













「ほぉ。言ってくれるじゃねーか、鳳。」




会話に割って入ったのは誰でもない跡部だった。




突然の跡部の登場に驚いたのは宍戸だけで、鳳は先程までと全く同じ瞳で跡部を睨み付けるように見る。


「跡部部長、アレってわざとでしょう?」



「アレ?何のことだ。」

そう言って跡部はニヤッと笑みを浮かべる。



















「俺もソレについては聞きたいなぁ。」














跡部の後ろから現れたのは

忍足だった。














「忍足先輩・・・・・・・・・。」





跡部の肩に手をかけて、少し身体を寄り掛からせた忍足が立っていた。


一体こいつらのこういう話を聞きつける能力は一体何なのだろうかと部一番の常識人の宍戸はいつも頭を抱えたくなる。













まるで、光に集まる蛾のようだと思った。




















「跡部様はちゃんにとーーーーっても入れ込んどるみたいやないか。」


「何の話だ?」


跡部の変わらない表情と口調に忍足の双眸がスッと細められる。



「いややなぁ。分かっとるんやで?



跡部、お前わざとに見せつけようしてるやろ?」







「時間合わせてますよね?大体、跡部部長は毎日、マネージャーに『呼び出し』をするなんて今まで無かったでしょう?
忍足先輩や向日先輩じゃあるまいし。」


鳳のその言葉に忍足は僅かに鳳の方をチラッと見たものの、ただため息を吐いただけだった。












「まぁ、そういうことや。わざとらしく時間ずらしてが部室に戻ってくる時間に合わせとるんやろ?まったく・・・・・どれだけ計算高いんや?



















おそろしいわ・・・・・・俺らの部長さんは・・・・・。」


































次の瞬間。









彼らは見てしまったのだ。




















恐ろしいほど美しく笑みを浮かべる跡部の顔を。













わずかに細められた瞳は明らかに特別な色に染まっていた。



楽しくて面白くて堪らない、そんな表情だ。





















寒くも無いのに、思わず鳥肌がたった。




















「男に対して・・・・・・いや・・・・男だからか・・・・?理由はよく分からないんだがな・・・・・あいつを見てると・・・・・・」








跡部の口元が一層笑みを深くする。


























「嗜虐心を







ソソルンダ
















理由も意味も無い。






本人にも分からない。


















けど、確かに心にあるもの。














「必死に何かにしがみ付こうとしているあいつが、















俺には哀れで可愛くて仕方が無い。」





















そう。


思わず必死に崖にしがみ付いている手を、















解き放ってしまいたくなるくらい。









































テニスコートの外からフェンス越しに見つめる一対の瞳。





「許さない・・・・・・。」




彼女の瞳に宿るは

















嫉妬。























それぞれの歯車は回りだす。











ゆっくりと




しかし確実に。

















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